湾岸中古タワマンへの「テレワーク移住」には、困難な未来が待ち受けているかもしれない Ⓒ 2021 Microsoft 「NEWSポストセブン2021/05/22 07:05」より

投稿日:2021年05月22日 作成者:福井英樹 (1317 ヒット)

東京都心エリアの新築マンション市場は依然として価格高騰が続いているが、コロナ禍で人気を集めているのが、湾岸エリアの中古マンションだという。だが、住宅ジャーナリストの榊淳司氏は、「安易にタワマンに移り住むと困難な未来が待ち受けている」と指摘する。その理由とは?

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2020年のマンション市場はかなり異常だった。その中でも、特筆すべきは東京湾岸エリアに見られた中古タワマンのブームとでも呼ぶべき売れ行きだった。

中古マンションの仲介現場からは、「買い手がいるのに、物件が足りない」という悲鳴すら聞こえてきた。当然、価格も上昇基調となった。ただし、それはバブル的な高騰ではなく、需要層の買える範囲内での値上がりであった。

 

湾岸中古タワマンブームはなぜ起きたか?

 

いったいなぜ、このような湾岸中古タワマンブームは起こったのか?考えられるのは、テレワーク需要である。

2020年4月に1回目の緊急事態宣言が発出されてから、東京ではテレワークという働き方が急速に広まった。ところが、テレワークが広まる以前、多くのサラリーマンにとって自宅は「寝に帰る場所」であり、そこで日常業務を行うことを想定していなかった。

ダイニングテーブルなどを使った人が多かったようだが、何かと不都合が生じる。配偶者もテレワークを行う場合には、スペースや空間が不十分である。

何より、誰かが同じ空間にいると打ち合わせや会議ができない。ましてや、小さな子どもがいる家庭ではなお大変である。第1回の緊急事態宣言下では、多くの小中学校、幼稚園などが休校状態となった。

マンション居住者の場合、住戸の外に出て共用階段の踊り場で仕事をしていた人も少なくなかった。複数で打ち合わせをすると、駐車場に停めてある車の中から参加している人を見かけることもめずらしくなかった。彼らは、言ってみれば「テレワーク難民」である。

「もっと広いマンションに引っ越そう」

「テレワークができる共用施設があるマンションがいい」

そういった需要に答えることができたのが、東京の湾岸エリアに林立しているタワマン群だったのである。80平方メートル以上の住戸も豊富にあり、共用施設は充実。中には大浴場のある物件もある。敷地内や周辺には小さな子どもが遊べる公園なども豊富。

しかも、築10年以上の物件なら価格もさほど高くない。

何より中古物件であれば、即入居が可能である。引っ越してしまえばテレワーク難民から逃れられるのである。そこで起こったのが、にわかな湾岸タワマンブーム。多くの人が湾岸のタワマンを買い急いだ。

しかし、彼らは本当に賢明な選択をしたと言えるのであろうか-。そこには将来的にいくつかの大きな問題がありそうだ。現時点でハッキリしている問題点を指摘しておこう。

 

時代遅れな「平成型」湾岸タワマンの豪華施設

 

東京の湾岸エリア(江東区の豊洲、有明、東雲と中央区の晴海、勝どき、月島)でタワマンの開発ブームが沸き起こったのは2000年頃からである。その頃の湾岸は、どちらかというと東京の僻地。人が住むというよりも「工場や倉庫がある地域」というイメージが強かった。

そんな場所で大量の新築マンション住戸を売ろうとするデベロッパーは、とにかく広告でイメージチェンジを図ろうとした。手っ取り早いのは、イメージキャラクターに有名タレントを起用することである。マドンナ、黒木瞳、新庄剛志など、誰でも知っているような有名タレントが次々に起用された。

さらに、マンションの周りには何もないエリアだったので、敷地や建物内に豪華施設を盛り込んだ。屋外なら子どもの遊び場やバーベキューコーナー、建物内にはスポーツジムやミニショップ、バー、パーティールーム、シアタールームなどに加えプールや大浴場を設置したタワマンも少なくない。

ただ、それらの維持費用は管理費で賄われる。湾岸タワマンの管理費や修繕積立金はただでさえ割高になっている。

湾岸タワマンが盛んに分譲されていた2000年から2010年代の前半まで、管理費+修繕積立金の標準的な水準は平米当たり400円前後であったが、湾岸では600円超が普通だった。豪華施設の維持費分がそっくり高くなっていたのだ。

特にプールや大浴場は維持費が年間数千万円に達する。しかし、利用者は一部の人々に限られるのでマンション内に不公平感が生まれる。管理組合の運営上、大きな負担になることは間違いない。

最近開発された湾岸のタワマンでは、プールや大浴場を設置するケースはほとんど見かけない。開発側もそのデメリットに気づいたのだろう。しかし、既存の中古タワマンは、これから老朽化するプールや大浴場をどうするのかという困難な出口問題に取り組まねばならない。

 

意外に知らないタワマンと一般マンションの「構造の違い」

 

多くの人が、テレワークのための「プラスひと部屋」を求めて湾岸の中古タワマンを購入した。湾岸の中古タワマンの価格は、中堅所得者が購入できるレベルにあったのだ。

当たり前だが、中堅所得者は毎日仕事をする人々である。ところが、タワマンの建物構造は365日24時間、そこに人が生活し続けるには何かと不都合なのである。

いちばんの問題は隣戸との騒音問題だろう。あまり知られていないことだが、タワマンと普通のマンションとは、同じ構造の建物と呼べないほどの大きな違いがある。例えば、タワマンの場合は隣戸との間を仕切る壁に鉄筋コンクリートが使われていない。

タワマンの住戸を仕切っているのは「乾式壁」と呼ばれるもの。分かりやすく言えば石膏ボードの間に遮音や断熱材を挟んだような構造。工場で製造されたものを、現場に運んで嵌めこむのだ。当然ながら床と天井に接合部ができる。

普通のマンションは戸境壁も鉄筋コンクリートだから柱や床、天井ともアナログ的に連続している。方や乾式壁はモノが軽い上に接合部がある。接合部の施工精度が低いと、マニュアル通りの遮音性が得られない。

一例をあげると、隣戸で掃除機をかけていると気配が伝わる。物件によっては、くしゃみの音さえ聞こえるという。

そのことを知らずに、湾岸の中古タワマンを購入した人は多いことだろう。緊急事態宣言下だと、隣人も24時間住戸にいる場合が多いはずだ。私が聞いたところでは、多くの人が隣戸から流れてくるテレビやYouTubeなどの音などに悩まされたそうだ。もちろん、小さな子どもが走り回る気配や、叫ぶ声も伝わりやすい。

 

大規模修繕から考える「湾岸タワマンの寿命」

 

今回のブームで売買された湾岸中古タワマンの多くは、築10年を超えているはずだ。

「マンションには50年以上住める。場合によっては100年でも……..」

鉄筋コンクリート造のマンションの寿命については諸説あり、一般的にはこのような見解が示されることが多い。私も聞かれたらそう答えている。しかし、これはあくまでも「適切なメンテナンスを行った場合」という前提条件が付く。

前述の通り、タワマンと普通のマンションは基本構造は大きく異なる。実は、タワマンの場合は戸境壁だけでなく外壁にも鉄筋コンクリートが使われていない。タワマンの外壁に使われているのはALCである。

ALCパネルも工場で作られたものを現場に運び込み、職人によってはめこまれていく。当然ながら柱や床、サッシュとの間には接合部が生じる。タワマンは普通のマンションに比べて、外壁部の接合部がかなり多い。

接合部には防水のためにコーキング剤というものが使われる。困ったことに、コーキング剤は風雨にさらされると劣化し、そのうち防水の役割を果たさなくなる。そうなると雨水が住戸内に染み出すことになる。現に既存のタワマンで雨水漏れが生じている物件がいくつも確認されている。

これを防ぐには15年に一度くらいのペースで、コーキング剤を打ち直す補修工事を行う必要がある。普通のマンションなら足場を組んで行う外壁補修工事でこれを行う。しかし、タワマンの場合は上層階まで足場が組めない。だいたい18階以上の外壁は屋上から作業足場やゴンドラを吊るす方式が採られる。これには時間も費用も掛かる。

タワマンの修繕積立金は、平方メートル当たりの単価が普通のマンションの2倍から3倍ないと、こういった修繕工事を行うためには足りなくなる。しかし、2000年代の分譲された湾岸の中古タワマンでは、そういった事態を想定せずに修繕積立金を低く設定したままの場合が多い。これでは将来大変なことになりそうだ。

さらに悪いことに、潮風や台風の強風に晒されやすい湾岸のタワマンは、内陸部よりもコーキング剤の劣化が速まっている可能性がある。湾岸タワマンにとって15年程度に1回の外壁工事は、そこに住むためには必ず必要なメンテナンスになる。

初回の大規模修繕工事の費用は何とかなるだろう。30年目の2回目には、外壁以外にも高額の費用を要する配管類などの設備更新も伴う。そして3回目の45年目頃は……..。

こういった現実を考えると、湾岸中古タワマンのテレワーク移住には、困難な未来が待っている可能性も十分にある。

以上、Ⓒ 2021 Microsoft 「NEWポストセブン 2021/05/2207:05」より抜粋。

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