判例トピック 立候補者の『選別』はNG 管理規約で「承認制」規定 理事会決定後総会に上程 管理組合役人 適格性の是非総会で判断ー 『人格的利益を侵害』

投稿日:2021年04月02日 作成者:福井英樹 (1361 ヒット)

管理組合役員立候補者が役人候補者として選出されるには理事会承認が必要ー。管理規約に、こんなルールを設けたマンションで、管理組合法人の役員に立候補したが理事会の承認を得られなかった区分所有者3人が「立候補権を害された」などとして不承認を決めた役員5人に共同不法行為に基づく損害賠償を求めて提訴した事件があった。一審・控訴審共に区分所有者側が敗訴したが、理事会が裁量を逸脱して立候補を認めなかった場合は、「違法制を有する」と指摘している。一体どんな点が違法に当たるとされたのか。

裁判資料によれば提訴は5年前の2016年。おととし最高裁で上告棄却・上告不受理の決定があり、裁判は終結している。

提訴当時、事件の舞台となったマンションは築約35年。理事長職を断続的に10年以上務めた元理事長の区分所有者をはじめとした3人が訴えを起こした。

役員の選任について、管理規約では「役員の立候補は立候補ならびに輪番に基づく候補者によって構成される」「輪番制候補者は2~4人とし、輪番制名簿に基づき指名される」などと規定していた。役員の定数は5人。

だが立候補者がいた場合の輪番候補者の選任方法など、役員の選任に関する規約の解釈に疑義が出され議論になり、6年前に規約を改正した経緯がある。

改正後は「改選する役員は立候補および輪番の合計で3人」「立候補者の承認には理事会の承認を必要とする」などの条項が設けられた。改正趣旨としては「立候補者が乱立して組合員が混乱することを防ぐために理事会である程度候補者を絞る必要がある」、「理事会の適切な職務執行を図る必要がある」などの説明があった、としている。

元理事長らは改正が承認された臨時総会直後に役員への立候補を表明したが、理事会は全員一致で立候補を承認しない決定をしたため、この役員5人を提訴。原告1人につき110万円をそれぞれ支払うよう求めた。

18年7月の東京地裁判決では、元理事長らが敗訴。

中西正治裁判官は、改正規約の条項は、立候補者の適格性等に対する「一次的な判断を理事会の広範な裁量に委ねる趣旨」と解釈。

「改正条項に基づく理事会の承認・不承認が違法とされるのは理事会が広範な裁量を逸脱・濫用した場合に限られる」とした上で、理事会に裁量の逸脱・濫用はなかった、と結論付けた。

判断に当たっては元理事長らが理事会を批判・中傷するなどのビラを全戸配布するなどしたため、理事会が元理事長らと共に円滑に理事会を運営していくことが困難だと考えた、総会で原告以外に理事会決定に対して異議が出なかった点などを考慮している。

19年4月の東京高裁判決も元理事長らの控訴を棄却したが「立候補者を役員候補者として選任するには理事会の承認を必要とする」と定めた規約条項には異議を唱えた。

川神裕裁判長は役員の選任方法についてはまず、区分所有法25条で総会決議以外に「規約で別段の定めが認められている」と指摘。

一方で規約は「区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない」と同法30条3項の規定を示し、「これを害する規約の定めは無効」と述べた。

その上で改正条項の趣旨が、一審判決で示された「理事会に広範な裁量を与えるもの」だとすると「一方で立候補を認めながら、他方で特定の候補者について理事会のみの判断で立候補が認められず」、総会決議で「役員としての適格性が判断される機会も与えられない」と言及。

「区分所有者間の衡平を害するもので区分所有法に反する」ものだとした。

ただ、改正条項については直ちに法違反を認めず、「明示はされていないものの、成年被後見人等やこれに準ずる者のように客観的にみて明らかに理事としての適格性に欠ける者については理事会が承認しないことができるという趣旨」と、条項の趣旨を再定義。

「その限度で改正条項は有効」だと結論づけ、理事会がこの裁量の範囲を逸脱して立候補を認めない決定をした場合には「違法性を有する」と述べた。

違法性について川神裁判長は、立候補者が持つ「役員としての適格性の是非を総会で区分所有者により判断されて信任・選任される」といった「人格的利益を侵害するもの」だとしている。

これらの点から判決では、元理事長ら立候補時、「明らかに理事としての適格性を欠いていたと認めるに足りる証拠はない」とし、理事会の決定は「与えられた裁量権の範囲を逸脱するもの」で、元理事長らの「法的利益を侵害する違法なものだった」と認定した。

判決は違法性認定も。。。 理事会側の過失は認めず

一方で判決は理事会の裁量権逸脱はあったものの、不法行為の成立要件に当たる役員の「過失」はなかった、と認定。違法性を認めながら元理事長らの賠償請求を棄却したのはこのためだ。

判決では、改正条項に「立候補者の承認基準が明示されておらず理事会の裁量を制限する定めがない」、また判決で示した規約の趣旨が「裁判等で明らかにされていたものではない」、「役員は専門知識がなく報酬も多額でない」などといった背景を考慮した。

これらの点から、理事会には承認に際し一定の裁量権があり、元理事長らの立候補を承認しないことができると考えたのは「やむを得ない」とし、役員に「注意義務違反があった」とする元理事長らの主張を退けた。

原告側からすれば、「勝負に勝って試合に負けた」格好だが、判決からは、管理組合運営を批判するビラ配布などを問題視した形跡がうかがえる。

ビラの内容について判決では、積立金の値上げを「誰かの差し金」とするなど、「穏当を欠く各表現が含まれている」などと指摘。立候補者が役員になった場合、改正趣旨にも当たる「理事会の適切な職務執行」に支障が生じる可能性があると考えるのは根拠がある、またビラ配布行為やビラの内容から「本件決定に至ったことはやむを得ないといわざるを得ない」と述べている。

改正条項は係争中に「立候補者1人とし2人以上いる場合は細則に基づき選挙で1人に絞る」旨の内容に再度改正されている。

以上、マンション管理新聞第1166号より。


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