採録 4/20日本マンション学会福岡大会メインシンポ 被災マンションの課題とそれを踏まえての提言 

投稿日:2019年05月23日 作成者:福井英樹 (124 ヒット)

 4月20日に福岡市城南区の福岡大学で行われた日本マンション学会福岡大会のメインシンポジウム「被災マンションの課題とそれを踏まえての提言」から、当日の講演要旨を紙上採録します。東日本大震災や熊本地震で敷地を売却した被災マンションに係わる運営の課題や被災マンション法、公費解体、被害判定などの問題について指摘や提言をしています。講演者はマンション管理士の藤野雅子氏と高橋悦子氏、東北学院大学の岡田康夫教授、千葉大学の小林秀樹教授、同学会熊本地震特別研究委員会委員長の折田泰宏弁護士。

 熊本地震のサポート経験からの考察  マンション管理士 藤野雅子氏

 藤野管理士は、熊本地震で支援した、全員合意で敷地を売却したマンションの事例を通して、今後の対策を考察した。
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 このマンションは築約25年、約50戸。管理会社は当初から同じ会社に依頼していた。総会は年1回。理事会は不定期で毎月はやっていなかったようだ。罹災証明は全壊で、地震保険は再々鑑定で全損になった。
 特徴的なのは、建物調査を通常総会で事後承認している。これは一般財団法人のBが、ぐずぐずしていたら受けられないと、すごく急がせた。まだ業務もしていないのに請求書を出し約360万円を払わせた。管理組合も非常時で仕方ないと進めてしまった。
Bの建物調査報告が未完であるのと、いろんな不具合が発覚して2016年12月にBと管理会社への質問の住民集会をしている。
 Bには屋上の防水工事も依頼していたが、工事完了報告書もないので提出を求めたら、工事費を払えという内容証明が来た。工事は未完だったので何をどうしたのか、詳しいものがないと払わないと言うと、Bは屋上防水の108万円の請求訴訟を起こした。結果は管理組合が1円も払わないという和解で終わっている。
 もう1つは、最初は復旧工事の方に進んでいたこと。工事の見積もりを取る段階で業者から耐震性に不安があるので再計算をしてほしいと申し出があり、構造計算書がなかったので再計算をした結果、耐震性はNGが出るとの報告だった。それで復旧工事ができないと、工事業者に言われてしまった。
 そのため急きょ取り壊しの方向で検討を始めた。この期間がとても短くて17年10月4日の公費解体申請期限当日に仮申請をした。この時点では理事会のみの判断だったが、仮申請はいつでも取り下げられるので確保しておく意図があった。その後12月18日に全員同意による決議をして、12月25日に全員の同意書類を出した。
 昨年12月に敷地の売却決議をして、今年1月に売買契約を締結、2月に所有権移転登記をした。
 こうした経験から考えたことは、まず管理規約を制定して日ごろから総会や理事会を開催すること。公費解体申請期限当日は4管理組合が仮申請しているが、本申請できたのはこのマンションだけ。規約がなかったり、総会や理事会を開く習慣がなくてできなかったところがあるので、基本が大事になってくる。
 次に名簿の整理。公費解体も敷地の売却も民法上の全員同意でしている。それができたのも皆さんの連絡先がわかっていたからだ。必ずつながる連絡先を把握していたためスムーズにできた。
 それから業者への発注支払いのルールは非常時でも守るということ。Bを信頼して依頼していたので、一つの方向性しか検討していなかったが、かなり時間とお金をロスしたと思う。良い業者ばかりではない。
 あとはコーディネーターの活用。管理組合と専門家をつなぐ作業が必要になる。マンション管理士は管理や運営の専門家だから、コーディネートするのが一番ふさわしい役割ではないかと思う。
 実際に敷地の売却では弁護士や司法書士、再開発コーディネーター資格を持つ不動産仲介会社で税理士事務所も併設しているコンサルタント業者をつないで業務に当たった。連絡を取りながら誰が何をするかスケジュール感を持ってすると、区分所有者は期日通りに書類を提出すれば、何の問題も不安もないという状態を専門家たちがつくる。
 震災当初は、効率よい支援をするために専門家がチームをつくって被災地に行き、ワンストップで提言できるようにするのがいいかと思う。

 全壊マンション運営 法整備を

 最後に法整備。仙台のケースのように一般社団法人を立ち上げて信託契約する方法はあるが、登記の費用と時間がかかるのと、区分所有法にも被災マンション法にも出てこない信託を説明するのが、なかなか困難だということで採用しなかった。
 そういう言葉があれば、法律にのっとって動いているということが説明しやすいので、ぜひ全壊マンションの運営についても法整備をしていただきたい。

 

 東日本大震災と熊本地震を経て建物取り壊し、敷地売却を選択したマンション  マンション管理士 高橋悦子氏

 高橋マンション管理士は、仙台市と熊本市の全壊や公費解体棟数の比較に加え、仙台で被災マンション法の敷地売却に関わった経験などから課題を述べた。
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 東日本大震災では仙台市内約1300棟のうち1割近くが全壊判定だった。熊本地震では熊本市内約750棟の中で全壊は19棟。
 数だけを見れば、熊本地震はそんなにマンションに影響がなかったということになるが、公費解体した数は仙台市の5棟に対して熊本市は15棟で、公費解体したマンションが多かったことになる。
 建物取り壊しまでの課題は、マンションは各部屋や棟によって被災状況が違うこともあるし、居住か非居住かで価値観も異なり、合意形成に時間がかかるが、取り壊し決議までの期間が政令指定から1年と非常に短い。公費解体との関係では、取り壊し決議をするまでの間に申請期間が終わってしまうこともある。

 大規模一部滅失 判定が困難

 大規模一部滅失の判定が困難という課題もある。
 合意形成の過程では選択肢を全て偏りなく検証して方針決定ができているかどうかも非常に難しいと思う。震災以前の管理組合内の人間関係も影響してくる。
 建物を取り壊してからの課題としては、管理組合の解散がある。区分所有法は管理組合法人の清算の定めはあるが、任意団体の管理組合の消滅時の精算の定めがない。マンション標準管理規約には消滅時の財産の精算の定めはあるが、その精算の範囲がどこまでかと思う。
 管理組合の残余財産が確定していない場合、すぐに解散するのが難しい。仙台で関わったマンションは滞納金が1000万円あった。おまけに管理組合預金に仮差し押さえが入っていた。最終的に敷地売却が終わり、滞納金などの精算をして、敷地共有者団体と同じ日に解散した。
 その敷地共有団体の費用も問題。敷地売却事業が終わるまで、それなりの費用がかかる。総会決議を経て管理組合の残余財産から貸し付けや移行をして財産を確保したが、管理組合法人で解散決議をしてしまって、管理組合の残余財産全部を分配してしまったところは、新たに敷地共有者団体の構成員から徴収する。
 これは難しかったと思う。
 仙台で関わったマンションの敷地売却では一般社団法人を設立して信託契約をした。
 敷地売却決議集会の2~3日前に亡くなった方がいて、決済のときに全員そろっている自信がなかったので、そういう形を取った。また管理組合内部に対立を抱えていたので、この方法が良かった。
 一般社団法人は清算結了まで若干日にちと費用がかかるので、そこまで考えるのが大事かなと思う。

 法学の観点からのコメント 東北学院大学教授 岡田康夫氏

 東北学院大学の岡田康夫教授は、被災マンション法や、災害時の緊急対応の法制度につて提言した。
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 大規模一部滅失では、(被災マンション法を利用する場合)1年以内に決めないといけない。この1年が短すぎるので全部滅失の場合と同じく適用期間3年と、猶予を設けるべきではないか。
 建物を取り壊して敷地売却する決議が成立した後、具体的にどう進めるのか法律で書くことも必要ではないか。一つの案としては建て替え円滑化法を使えるようにする。ただ、本来の目的がちょっと違うものであるし、被災マンション法は大災害のもとで復旧・復興するという法律になるから、オリジナルの内容を被災マンション法に書いてもいいのではないか。
 被災直後はお互いに連絡を取るのもままならなかったり、緊急対応を迫られたりする場面があるかと思う。
 区分所有法では、保存行為は一人一人の区分所有者がやれるとしか書いていない。あとは管理者が選任された場合は、管理者の権限という程度しか書いていない。
 標準管理規約では、理事長は災害時等の緊急時、総会や理事会の決議によらずに敷地および共用部分等の必要な保存行為を行うことができるとある。さらに54条1項10号で理事会が決議できる事項として、災害等により総会開催が困難である場合に応急的な修繕工事の実施等がやれると書いている。
 標準管理規約に準じた規約のマンションは、これである程度対応できる。保存行為は結局何がやれるのかよく分からないと言う話や、もう少し具体的に挙げるべきではないかとい考え方もあるが、保存行為の解釈の中で速やかに求められる行為のすり合わせをするというやり方でもいいのかなと思う。

  災害時の緊急対応 法規定を

 また、理事長と連絡が取れないときや理事会が開けないときは対応できないから、理事長代行や理事会代行組織の内容も規約に入れることが必要ではないかと言える。そもそも規約がない、災害時の対応が書いていない場合もあるので、きちんと法律も災害時の緊急対応について用意する方がいいと思う。
 緊急時に集会で決議するのはなかなかできない。オーストラリアでは集会決議をスムーズに進めるための仕組みとして定足数に達しない集会の決議に暫定的な効力を認めるというのがあり、決議後に全員に決議に内容に意見があるかを通知して1カ月くらいの期間内に異議がなければ、その集会の決議が最終的に確定するそうだ。
 それを日本の普通の集会でするのはやり過ぎだが、緊急時の集会をやりやすくために、そういう仕組みはあってもいいのではないか。
 民法では、緊急時に頼まれていないことでも、人の分も含めてやってもいいという仕組みがある。真剣に注意を払えば、後から責任は問われないことになるし、特に人の生命や身体、財産を深刻な侵害から守るときには、多少不適切な判断であっても、責任を問われずに済む仕組みになっている。
 後から文句や責任追及されることをそんなに心配しないで、必要があればやってもたぶん大丈夫ではないか。

 被災マンショにおけるマンション再生の諸事例と課題ー立法、行政への政策提言に向けて  弁護士 折田泰宏氏

 学会の熊本地震特別研究委員会委員長の折田泰宏弁護士は、同委員会の提言として、自治体の支援制度や法制度、地震保険、被災度区分判定などの課題を指摘した。
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 自治体は一般的な管理の問題については取り組みが始まっているが、被災の問題についてはほとんど対応されていない。
 ただ、震災を経験した仙台市や熊本市ではいくつか整備されている。例えば、応急修理制度で区分所有者や管理組合が見て分かりやすいパンフレットを作っている。熊本は被災時のアドバイザー派遣がある。さらに方針を決めることについての補助金も出している。こうした支援は全国的な展開をしていく必要があるのではないか。
 法制度の課題では公費解体がある。熊本市は建物の中の動産類の財産放棄の承諾書を出さないと駄目だった。実質的に被災マンション法の多数決による解体決議は意味がなくなってしまっている状況があるので、検討しなくてはいけない。
 被災マンション法の課題については、岡田先生の話にもあったが、大規模一部滅失の適用期限の延長がある。2年ないし3年にするべきではないか。
 今の法制度の中で期限を切らないで多数決で解体をして敷地を売る制度は、建替え円滑化法の利用になるが、耐震性があるかどうかで判断され、IS値がまともであれば難しい。この辺の改正も考えていただきたい。
 地震保険の問題では一次査定で柱と梁だけで判断していて、本当は主要構造部全体を見るという説明がなされていない。これは運用の問題だから、監督官庁に実際に調査する人たちに対しきちんと説明をするように指導してもらう必要があろうかと思う。
 専門家の支援体制では、地震直後に全国から人が集められて、被災建物を回る応急危険度判定と同じように、被災度区分判定も専門家を派遣して判定してもらう制度作りができないか、という提案があった。重要な判定だが、お金がかかるということで結局他の判定結果で判断してしまうので、それをもっとやれるような制度が必要かなと思う。
 最後に、区分所有法の復旧決議の問題。熊本でも復旧決議はあまり使われていないが、一般の補修と、復旧決議との違いがはっきりしないので、この規定はもう少し整備する必要がある。
 小規模滅失か大規模滅失かの判定については阪神・淡路大震災のときから問題になっているが、当時、日本不動産鑑定協会が作成した簡易判定の方法があり、改めて現代版をつくって整備するべきではないか。

 

 建築工学からの被災マンションの課題  ー建物の被害判定と杭基礎の問題を中心にー   千葉大学教授 小林秀樹氏

 千葉大学の小林秀樹教授は、主にくい被害の問題や被害判定の方法の見直しについて提言した。
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 くいは2001年の国土交通省の告示で基礎の耐震設計が義務化されている。それ以前では義務ではなかったので、00年以前のマンションでは被害が出る確率があるそうだ。ほとんどのケースで建て替えや解体になってしまうので、くいが被害を受けると重大な結果を招く。
 千葉県の中層マンションでジャッキアップして修復した事例がある。阪神・淡路大震災で15階建てのマンションでくいを修復した事例もあるそうだが、高層になればなるほど技術難度が高くなり、簡単にできるかどうかは即断できないだろう。今後もっと注目して、今はくいの耐震診断という方法はないので、それもつくっていく必要があるのではないかと思った。
 被害判定は、罹災証明の各種支援金に影響する非常に重要になるもので、内閣府が判定指針を提示している。
 被害調査の対象部位は構造部材、非構造部材、設備。
 被災度区分判定では地震力の残存率を判定するので、基本的には構造体を判断する。それに一番近いのが地震保険。罹災証明や応急危険度判定は非構造壁や設備も一部判定することになっている。
 この罹災証明の全壊判定が、熊本市と仙台市を比べると、あまりにも違いがある。被災後の混乱の中で基本的に自治体職員が判定するのでぶれが生じるのはやむを得ないと思うが、それでも判断がぶれすぎている。これは判定方法に問題があると思っている。
 内部まで立ち入る2次調査の場合、建物部位の被害割合を配分していくが、柱・耐力壁は50%、梁と床は10%で60%の被害を構造体で判断することになっている。非構造壁は最大最大10%、内部仕上げと天井も10%。設備は15%になっている。全壊判定は50%以上の被害なので、構造体に被害がなければ絶対にならない。非構造壁や設備が破壊されると住めなくなるので、あまりにも一般の感覚とずれている。
 なぜこんなずれが生じるのか。それは、この被害割合の配分率と建築費の構成比がずれている問題が一番大きいと思う。前者は構造体に60%配分しているのに対して、一般的な建築費の割合でいくと3割くらいになる。非構造部材で大体45%、設備の建築費は25%くらいになる。
 ただ、構造体は重要であることは変わりない。問題は構造体の被害が軽微な場合にある。非構造部材や設備が被害を受けると、少ないパーセントでしか判定されないことになって、それが区分所有者の実感と合わない。だから、自治体に文句を言って何回も査定してもらうことになる。
 どう変えていけばいいか。まず、従来と同じ判定のフローとして建物の一部の階の倒壊、傾斜・沈下、構造体の損傷率75%以上であれば全壊。いずれも該当しない場合に先ほどの部位による比率で判定する。
 そのときに従来の構造体に60%配分する方法と、建築費の割合に近い30%くらい配分する方法の2つのパターンを設けて、このうち被害割合が大きい方を採用するようにすればいい。調査票そのもは同じでいい。
 最後の重み付けを変えるだけなので、簡単に採用できると思う。

以上、マンション管理士新聞第1104号より。

   

 


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