解約義務づけ「効力ない」 高圧一括受電方式導入巡るトラブル 「共用部分の管理」にあたらず 3/5最高裁第三法廷

投稿日:2019年03月19日 作成者:福井英樹 (2678 ヒット)

 専有部分の電気供給方法を「高圧一括受電方式」に変更する総会決議を受け、同方式以外での電力供給を禁ずる旨を定めた「電気供給規則」(細則)の効力と、各区分所有者が結ぶ既存の電気供給契約の解約を義務づける旨の総会決議の有効性が争点になった訴訟の上告審で最高裁第三法廷(岡部喜代子裁判長)は3月5日、いずれも「効力を有するものとはいえない」とする判断を下し、一審判決取り消しと高裁判決の破棄を命じる判決を言い渡した(1月25日付・第1094号に事件の概要)。判決は裁判官5人の全員一致。

 判決は、総会決議のうち解約を義務づける部分は「専有部分の使用に関する事項を決するもので、共用部分の変更または管理に関する事項を決するものではない」と指摘。区分所有法17条1項の「共用部分の変更」、同法18条1項の「共用部分の管理」の決議として効力を有するものとはいえない、とした。細則についても、管理規約で定めることができる「区分所有者相互間の事項」を規定したものではなく、「規約として効力を有するものとはいえない」と結論づけた。
 岡部裁判長は「専有部分で使用する電力の供給契約を解約するか否かは、それのみでは直ちにほかの区分所有者等による専有部分の使用または団地共用部分等の管理に影響を及ぼすものではない」と言及。高圧一括受電方式への変更は、「専有部分の電気料金を削減しようとするものにすぎず、同方式への変更が行われないことで専有部分の使用に支障が生じ、団地共用部分等の適正な管理が妨げられることとなる事情はうかがわれない」と判断し、総会決議・細則で電気供給契約の解約義務を負うものではない、と結論づけた。
 事件の概要・・・専有部分の電気供給方法を「高圧一括受電方式導入」に変更する決議が可決されたが、電力会社との間に結んだ既存の契約を解約しない区分所有者のために同方式による電気供給ができず、安い電気料金の恩恵を受けられなくなったなどとして、札幌市の団地型マンションの区分所有者が従来の電気料金との差額を「損害」だと位置づけ、解約を拒否した区分所有者2人に不法行為に基づく損害賠償を求めた。一審・二審では原告側が勝訴していた。

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<コメント>
 事件の舞台になったマンションが導入を検討してきた高圧一括受電方式は、通常既存マンションで検討される高圧一括受電とは異なる特徴が二つある。
 一つは、共用部分は対象外で専有部分だけが対象だった点。
 もう一つは、いわゆる「小売り電気事業者」が介在していない点だ。このため、各住戸のメーターやブレーカーなどを含む電気設備の設置費用、設備の保守・維持費用、更新費用、検診等事務経費など費用の一切は管理組合の負担になる。
 小売り事業者が入る場合、こうした費用やリスクを計算した上でプランを提示するため基本的に管理組合に負担は発生しないが、このマンションは違う。

                                   
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 最高裁は、管理規約や総会決議で区分所有者に電気契約の解約を強制することはできない、と判断した。だが、高圧一括受電方式の導入は、管理の現場では「全員合意」を前提に進められている。反対者にはあくまで説得による翻意を促し、決議に協力してもらう立場を取ってきているのだ。
 この「前提」に基づけば、このマンションで全員合意を得るにはコスト負担がない高圧一括受電と比べ、高いハードルがあった。
 最終的に全員合意を勝ち取るには、詳細な事業コスト計算・リスク対応の検討はもちろん、徹底した情報公開や丁寧な段取りを重ね、まずはコストや事業に不安を感じる区分所有者の疑問を取り除くのが不可欠になる。
 だが、裁判資料を見る限りでは、管理組合が丁寧な説明をしていたのかどうかが判然としない。
                                   
                 
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             合意形成  尽くされたのか

 高圧一括受電方式の導入を決めた通常総会では、修繕積立金から支出するとして導入設備経費5500万円が提示されたが、総会議案書に費用の内訳や根拠の記載はない。維持保全費用は年間200万円だとして、一般管理費会計から支出するとされているが、こちらもそれ以上の説明はない。総会以前の広報誌を見ても、費用の根拠となる資料や費用を導き出すまでの経緯が、一般区分所有者に公開されている様子はうかがえない。
 電気供給規則案が承認された臨時総会に際しては、配布した資料に突然「暫定措置」として1キロワットアワーごと3円の料金加算を通知するなど、全員合意を得るための作業としてはやや雑、という印象を受ける。
 実際、総会では3円の根拠となる「概算見積もりを提示すべきでは」とする意見が上がる一方、今後の電気料金について執行部側が「想定できない」と答える一幕もあった。
 専門委員会の委員として高圧一括受電の導入に奔走してきた原告側は、裁判で高圧一括受電導入・保守費用などについて業者から得た見積もりを提示している。管理組合が費用を負担しても「赤字」にはならず、問題は生じないことを主張するためだと考えられる。
 何としても高圧一括受電を導入したかった、という原告側の心情は理解できないわけではないが、これらの書証は公にされたものではないようにも見える。
 設備導入についても総会では「全て新規導入」を前提に承認を得ているが、一方で総会直前に設備の一部を譲り受けた場合の金額について電力会社に見積もりを依頼している。
 被告側は、この経緯を知り、法廷で「新規導入と一部譲渡では全く状況は変わってくる」と主張しているが、執行部側がこうした設備整備方法を視野に入れていた事実も、おそらく知られていない。
 双方の主張の成否を置くとしても、区分所有者が合理的な判断を下せるだけの事業計画の作成と、丁寧な情報公開が行われていたのかと言う点では、執行部側に反省の余地はあると考えられる。
 管理組合は、裁判の被告になった区分所有者2人に「最終手段」として「59条競売」を仕掛けたが、棟総会で否決されている。
 「団地総会で一人でも反対した場合は(高圧一括受電を)止めるといっている」「棟総会で裁判を起こしてまで高圧受電を実施することはない」ー。一部の理事からは否決後、こんな意見も上がっていた。
 今回の裁判で教訓にすべきは、法的な結論よりも懇切丁寧な合意形成の大切さだ。

 以上、マンション管理新聞第1099号(2019年3月15日発行)より。

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