管理不全 『症例』を類型化 日管連合同研修会 1/24 東京・両国 管理士3人が実例報告 

投稿日:2019年02月13日 作成者:福井英樹 (483 ヒット)

 1月24日、東京・両国の国際ファッションセンタービルで開かれた一般社団法人日本マンション管理士会連合会(日管連、親泊会長)の合同研修会。テーマは「管理不全にどのように立ち向かうか」。当日は自治体の関係施策紹介や基調講演(富士通総研経済研究所 米山秀隆主席研究員による「限界マンション 次に来る空き家問題」)などがありましたが、ここでは日管連会員の同・東京都マンション管理士会所属管理士による事例報告のピックアップ。自身の活動に加え、業務を通じて得た「気付き」にも言及しています。報告者は大久保和夫、田邊実、酒井昭夫の3氏。今回は酒井氏の報告を。

 管理不全マンションへのかかわり方 酒井昭夫氏

 酒井氏は、自らの業務経験から「管理不全マンション」を①管理組合がない②管理組合の人的問題③事件性がある④管理会社に問題があるーなど原因別に分類。組合員の属性に変化が生じ管理不全の兆候を感じ取った事例を加え、管理不全の類型を五つ提示した(下表に管理不全の類型詳細)。
 当日配布された資料や氏の報告から、事例の概要を一部抜粋して紹介する。

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 ①管理組合がない
 A管理組合未形成型
 築43年。23戸。1~2階に鉄工所・事務所がある複合用途型で自主管理。もともとは地権者の鉄工所が建てた賃貸マンションだったが、地権者の事情で少しずつ売られ、区分所有マンションになった経緯がある。
 関わりを持ったのは築37年のとき。修繕の見積もりを取ったところ、費用が1億5000万円かかると分かり、困り果てた住民の相談を受けたのがきっかけだった。管理規約・使用細則はなし。修繕積立金制度もなかったが、マンションとして売り出されたものでなかったため、区分所有者の意識も希薄だった。管理費はあり、鉄工所の事務員が徴収していた。
 対応策として、まずは管理組合の立ち上げ・管理規約の制定を行った。公益財団法人マンション管理センターの「長期修繕計画作成・修繕積立金算出サービス」を活用し、修繕積立金制度を作り、大規模修繕に際しての優先順位も提案した。1位はエレベーターの改修にした。
 工事資金は住宅金融支援機構の融資制度で不足分を賄った。東京都の利子補給制度も活用した。
 元地権者の鉄工所は、このとき、すでに最後まで所有していた1~2階と住戸一つも印刷会社に売却しており、この会社の持ち分が全体の32%もあった。管理規約の制定・大規模修繕の必要性などについて、その都度説明し協力を得た。「何でも反対」で、自己の主張を繰り返す人や「あの管理士をやめさせろ」と騒ぐ人もいたが、最終的には大規模修繕工事もできた。

 B自治会管理組合型
 築49年。57戸。1階は店舗、2~3階は事務所で、こちらも複合用途型で自主管理。
 「自治会規約」という名の管理規約はあったが、規約の「会員」は賃借人を含む居住者。管理組合と自治会の違いが理解されていなかった。
 自治会費を集め小修繕等に利用していたが、修繕積立金がなく、大規模修繕は未実施。避難用の鉄骨製非常階段は腐食で穴が開き、危険な状態だった。
 ここでも対策は管理組合立ち上げと管理規約の策定。自治会と管理組合とは異なることの説明から入り、修繕積立金についても「なぜ必要か」を説いた。A同様、マンション管理センターのサービス、住宅金融支援機構の融資制度、東京都の利子補給制度を活用した。
 このマンションでは住民同士の確執があった。高経年物件ではよくある話で、相談に来たリーダー格の住民の親が共用部分を巡って他の住民と裁判で争った過去があり、そのいさかいが子の代まで引き継がれていた。
 

  管理不全マンションのパターン

 Ⅰ. 管理組合がなく管理不全
       ①管理組合未形成型
       ②自治会管理組合型
       ③世話人対応型
       ④相続分譲マンション型  
       ⑤複合用途分裂型
 Ⅱ. 管理組合の人的問題から管理不全
       ⑥名ばかり役員型
       ⑦ワンマン理事長型
 Ⅲ. 事件性管理不全
       ⑧理事長交代不正発覚型
       ⑨組合長期内紛型
 Ⅳ. 管理会社に問題があり管理不全
       ⑩管理会社フロント停滞型
       ⑪管理会社任せ機能不全型
 Ⅴ. 組合員の属性に変化が生じ管理不全の兆候
       ⑫管理組合のパワー低下型

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・理事長仕切りも急死で一変

 ②管理組合の人的問題
 ワンマン理事長型
 築45年。71戸。工場店舗が1区画。自主管理。
 理事長が全てを仕切り、ほかの理事は名ばかりの状態だったが、理事長が急死して状況は一変。死後、理事長による不正の疑いが浮上したほか、マンション管理士を名乗る区分所有者が何かと口出しするようになった。
 この区分所有者はマンション管理士ではなく、いつの間にかマンションを売却し、いなくなった。
 ここでは管理規約を改正し、第三者管理者の規定を新設。長計・修繕積立金制度を設けた。ここも修繕積立金はなく、任意の「外装積立金」を徴収しているだけだった。外装積立金は廃止し、積み立て分は各所有者に返金した。
 元理事長の不正は資料がなく追求は断念。ほかの理事も会計以外は問題対応力に乏しかったため、第三者として理事に就任し、現在は理事長として第三者管理を行っている。
 
 ③事件性管理不全
 組合長期内紛型
 築44年。66戸。ほか店舗・事務所が3区画ずつある複合用途型。委託管理。
 1原始規約の不備 2管理会社の倒産による修繕積立金約3000万円の不明問題と不明金に関連した未収金 3共用部分の壁を破壊して行った「2戸1」化ーなどの問題があった。
 1は新規約案を作成したが2は追求断念。3は、住戸の所有者が管理組合らの指摘を「名誉毀損」だとして民事訴訟を起こす結果になった。裁判は組合側が勝訴したが、問題自体は未解決。
 このマンションには「クレーマー」といってよい論客が複数おり、合意形成が困難。輪番制にもかかわらず理事の辞退者が多く、管理組合でも発言しない人が多い。
 「管理不全」の状況が続いている。
 
 ④管理会社に問題がある
 管理会社任せ機能不全型
 築46年。172戸。ファミリータイプ。委託管理。
  管理業者のフロント担当による3億円もの横領が発覚したが、管理組合は何も言わないでいた。管理はデベロッパーの管理部門が実施しており、被害額は会社が弁済した。
 横領が発覚したのは11年3月。東日本大震災で建物に被害があったにもかかわらず、管理業者からは工事の提案もなかった。
  その後、輪番制・くじ引きで就任した80歳の女性理事が、助けを求めてマンションの掲示板で訴え。協力者が現れ「専門家を活用しよう」という流れになった。
  対応策は「管理業者の変更」。強力な反対者の出現で紛糾したが、変更に成功した。
  変更後、「管理会社任せでは駄目だ」と住民が気付く。理事長や理事会の負担軽減も必要だとして、理事会をサポートする「部会」を設けることになった。部会には約30人が参加してい  る。
  運営体制が整ったおかげで復旧工事、大規模修繕、管理規約改正なども実施できた。現在は防災にも積極的に取り組んでいる。
  他の高経年マンションにも共通するテーマとして、認知症居住者の問題がある。
 専有部で漏水が起きたが、原因箇所の独居住民が認知症で対応ができず、被害者が広がり、原状回復に多額の費用がかかった。
  今後も同様の事故が起きる可能性がある。
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人的変化で「パワー低下」
 ⑤組合員の属性に変化が生じ管理不全の兆候がある
 管理組合のパワー低下型
 築46年。2棟の団地型。総戸数は84。自主管理。
  管理規約・使用細則なし。団地だが、各棟の交流がない。そのため1棟が管理規約を策定したが、もう1棟と協議できず棟単独の規約になってしまった。
  その後顧問に就任し、もう1棟の理事を総会に「招待」するなどし、意思疎通を試行。駐輪場の設置などを、2棟の「共同事業」として実施した。
  ところが、相談を持ちかけてきた当時の理事長が認知症を発症。区分所有者の孤立死が発生する一方、外国人区分所有者が増加。多くは投資目的で総会に出席せず、委任状や議決権行使書 の提出もない。管理組合の意思決定がしずらくなり、日常の管理にも支障が出ている。生活などに関する「しおり」を作成し、最低限のルールを守ってもらおうとしている。
  法人区分所有者が突如建て替えを主張するなどの波乱要素も含んでおり、第三者管理者方式を導入したが、区分所有者の高齢化・多国籍化で役員のなり手が不足している状況から、法人区 分所有者の思惑通りに事が進んでしまう可能性もある。
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 原因に「3つの空洞化」も  組合なし・規約なし・積立金なし・自主管理  似通う環境
 
 報告では、管理組合未成立・管理規約未整備・修繕積立金制度がない・自主管理など、環境が共通している事例も目立った。酒井氏は管理不全の原因として「管理組合の未形成」「二つの老い」などに加え、賃貸化・空室化・多国籍化による「三つの空洞化」を挙げている(表参照)。
 管理不全に立ち向かうマンション管理士の心構えとしては「公平・公正に粛々と業務を遂行すること」を挙げ、「弁護士でないので、依頼者やそのときの理事長の言い分を聞き肩入れするのではなく、管理組合の利益のために助言すること」が重要だと指摘した。
 酒井氏は、そうした姿勢を貫くとマンション管理士の存在価値は高まるとしながらも「マンション内のトラブルも待ち構えている」とリスクも提示。
 「居住者の人間関係に配慮し、トラブルに巻き込まれないように注意する一方、トラブルを恐れず解決に乗り出すことも必要」だと持論を述べた。


◆管理不全の原因・・・・・・管理組合が機能しづらくなっている
①管理組合の未形成・・・・・・・・「一人が全部所有 → 一部売却や相続で区分所有 → 管理組合未形成は今後も生じる
②マンションの二つの老い・・・・・・建物の老朽化、住民の高齢化(← 少子高齢化)
③マンションの二つの空洞化・・・・・・賃貸化・空室化、多国籍化(三つの空洞化?)
④マンション内の逆噴射・・・・・・・・・・・区分所有者間トラブル(管理組合は利害の異なる区分所有者の集合体である。管理組合の数だけトラブルがあり、同じマンションでも人が変わればトラブルの内容も変わる)。トラブルが多発すると、役員辞退者増加

◆管理不全になると
・共用部のメンテナンスがされない……外壁の塗装・修繕、設備改修、階段・手すり・エレベーター・エントランスの管理、共用部分の清掃、ごみ収集等に問題発生
・以上の状況で、合意形成の変化と困難化。役員はますますなり手不足(悪循環)

以上、マンション管理新聞1095号より。

 日管連の瀬下副会長はその著書「マンション管理士の仕事術」住宅新報社刊の中で、以下のように述べられています。

マンション管理士が活躍する場
 新築マンションの広告などをみていると、都心に立地するタワー型マンションや、大規模マンションなど、華やかな物件に目を奪われがちですが、マンション管理士が本当に求めれれている場所は、言い方を変えれば、マンション管理士の活躍する場所は、そうしたところではないと、筆者は考えています。管理業者にも見向きもされないような、古く、小規模な、マンションの中にこそ問題を抱えて困っているところが少なくないのです。
 例えば、古い小規模マンションで、十分な管理資金を捻出できないような場合、管理業者に全面委託することもできません。そうしたところでは、そのまま区分所有者があきらめてしまい、最終的には、スラム化してしまう可能性すらあります。
 そのようなマンションの、自主管理のお手伝いができるプロのマンション管理士が、1人でも多く誕生することを願ってやみません。
以上、「マンション管理士の仕事術」より。

上記講演者の酒井昭夫氏はまさに当該プロのマンション管理士を地で実践されておられるようです。小職もお手本とさせていただきたいと思っております。

 


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