最高裁判例トピック 「専有設備の一体的改修OK」積立金で工事実施

投稿日:2018年01月03日 作成者:福井英樹 (8801 ヒット)

マンション管理新聞第1058号より
 共用部分と構造上一体で管理に影響を及ぼす部分の修繕に修繕積立金を充当できる旨改定した管理規約に基づき、専有部分を含む給排水管・ガス管の更新に加え、浴室、トイレ、給湯機、洗濯パンといった設備交換や新設を、修繕積立金を充当して実施した管理組合に対し、区分所有者2人が管理規約の改正や工事を決めた総会決議無効を求めた裁判の上告審で最高裁は9月14日付けで上告不受理を決定した。区分所有者の請求を棄却した今年3月の東京高裁判決が確定した。

 裁判資料によれば、事件の舞台は今年で築50年を迎えた神奈川県のマンション。
 管理組合は2012年、管理規約を改正し「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分および共用部分の管理上影響を及ぼす部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる」とする規定を新設。同規定を修繕積立金の用途に加える改正も行った。

 その後専有部分を含めた給排水管・ガス管の更新に加え、トイレの交換、浴槽のユニットバス化と、それに伴う給湯機の設置、洗濯パンを新設するなどの内容の工事実施を決議した。工事金額は5億9745万円。

 自費で先行して専有部分の工事をしていた区分所有者の一部は同年、総会決議の無効を求めて提訴。工事は13年4月末ごろまでに9割超の住戸で完了した。

 裁判では、規約改正や工事の実施が区分所有法30条3項の「区分所有者間の利害の衡平」を著しく害しているか、区分所有法31条の「特別の影響」に当たるか、などが主な争点になった。

 区分所有者側は「配管の更新と浴室・トイレなどの専有部分の設備工事を一体化して行う必要はない」とした上で、総会決議は専有部分工事に修繕積立金を充てるもので、既に工事を実施している区分所有者との間に不均衡が生じるとし、区分所有法30条3項に違反し無効だと主張。

 規約改正で、先行して工事を実施した区分所有者はせっかく設置した設備を取り壊され「質が劣った設備を取り付けられる不利益を被る」とし、工事で特別の影響を受けるが不利益を被る区分所有者の承諾はない、と訴えた。

 また、「設備は配管と構造上一体となった部分ではない」とし、仮に規約改正が有効だったとしても、工事は規約に違反する、との主張も展開した。

 昨年9月30日の一審・横浜地裁判決(大竹優子裁判長)は、区分所有者側の請求を棄却した。
 区分所有者間の利害の衡平について大竹裁判長は、「工事に先だって浴室・トイレなどの設備を自費で更新した者と、工事によって修繕積立金で設備の更新を行った者との間に不均衡が生じる可能性は否定できない」と言及。

 ただ、管理組合が、既に設備を交換していた区分所有者らに、設備をそのまま使う場合は設備の復旧工事代金を減額しているなどの対応を取っている点から、工事の必要性および合理性と、先行して工事を実施した者が受ける不利益を比較し「決議の無効をもたらすほどの不公平が生じているということはできない」と判断した。

 特別の影響については規約変更で生じる影響は「全ての区分所有者に公平に及ぶものである」として、個別の承諾は不要とした。

 規約違反の有無については、浴室やトイレは専有部分の配管を介して共用部の配管に接続されていることや、配管類の更新に伴い、浴槽やトイレを撤去して防水工事が必要であったこと、ユニットバス化した方が工期や戸当たり費用を圧縮できること、漏水の危険性があったことなどを踏まえ「共用部分の給排水管・ガス管を改修するために必要であり、かつ、合理的な工事方法」と一体管理の必要性を認めた。同様にユニットバス化に伴う給湯機等の設置も認定した。

 洗濯パンは、洗面所内に洗濯機を設置する区分所有者が増えたことで排水が洗面所内に流れて下階に漏水する事故が散見されていた事態を考慮し「共用部分の管理と関連し、一体として行う必要があると認められる」と判断した。

 今年(2017年)3月15日のニ審・東京高裁判決(川神裕裁判長)も一審判決を支持。同マンションで「管理の方法として給排水管等と浴室設備等およびその付属設備とを一括して更新することには必要性および合理性があるというべきである」と判断し、区分所有者側の請求を棄却した。

 この判決では、専有部分の配管だけでなく、配管と直接つながる設備についても管理組合による「一体管理」を認め、修繕積立金による工事を認めた。一体的管理を行う必要性・合理性があった、と判断されたからだ。先行して工事を実施していた区分所有者に対し、一定のアドバンテージを設けるなど管理組合が配慮を行っていた点も評価された。
 
以上、マンション管理新聞第1058号より。

 本判決は、「マンション管理組合が大規模修繕工事等の修繕を実施する際、一定の条件のもとで修繕積立金を専有部分の工事に使用することは、違法ではない。」という判断です。

 国土交通省マンション標準管理規約第28条(修繕積立金)第1項の各号には以下のように規定されています。
 1.一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
 2.不足の事故その他特別の事由により必要となる修繕
 3.敷地及び共用部分等の変更
 4・建物の建替え及びマンション敷地売却(以下「建替え等」という。)に係る合意形成に必要となる 
   事項の調査
 5.その他敷地及び共用部分等に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理

 当該各号は、すべて共用部分が対象となっています。
 さらに、同21条(敷地及び共用部分等の管理)第2項には以下の条文となっています。
「2 専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。」
これに対する、国交省のコメントには
 1.第2項の対象となる設備としては、配管、配線等がある。
 2.配管の清掃等に要する費用については、「共用設備の保守維持費」として管理費を充当することが可能であるが、配管の取替え等に要する費用のうち専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものである。

 つまり、「専有部分を含む雑排水管等の高圧洗浄等は管理費から支出してもよいが、更新工事の場合は、専有部分の工事は個人負担でやりなさい。」と指導しており、そうなると、築年数が経過した高経年マンションでは漏水事故対策等で、当該更新工事の必要性が高まっているにもかかわらず、年金暮らしの高齢者等の個人的経済問題もあり、専有部分の改修工事がなかなか進まないことになります。
 専有部分の更新工事は実施したいが、個人負担となると躊躇する住戸が出てくることは想像に難くありません。しかしながら、それを修繕積立金を使って管理組合が実施してくれるのであれば反対する人はいなくなります。
 管理組合に資金的な余裕や目途がある場合には、今までは、大きくもめたり、裁判沙汰にもならず、配管更新に関して、専有部分も修繕積立金で工事を実施している例は少なからずの事例がありますが、当該最高裁の判断が正式に出たことは大変意義深いことです。
 さらに、最近では、維持管理を共用部分から専有部分まで拡大して考える理由として、維持管理の目的は、居住者が安心、安全、快適に生活する為に機器を設置し、その設備の機能・性能を継続的に使いこなすことであるが、設備機器の機能が高度化してきており、取り扱いが複雑で操作できないことや使っているうちに部品が劣化してきて、メンテナンスができなくなり、しかも居住者が高齢化してきて、居住者からの緊急対応要請が頻繁に各管理組合で起こってきています。
 そもそも、排水管洗浄業務は専有部分設備不具合チェックの唯一の機会でもあり、居住者と年1回のコミュニケーションを取れる機会でもあり、排水管洗浄時に各設備の漏水確認を行うことのできる絶好の機会ともなっています。すなわち、緊急漏水事故・機器故障の予防保全につなげることができます。
 例えば、台所でいえば、排水のトラップ枝管のオーバーフロー管の劣化による漏水、洗面ユニットでいえば、トラップ止水栓の止水装置が劣化していたり、この判例のように洗濯防水パンの排水に関して、大型ドラム式洗濯機の設置不可・トラップが取り外しの不可・ホースがトラップに固定不能等、さらに、浴室の場合は、トラップの排水口のパッキン劣化による臭気漏れ等、今後、ますます、共用部との一体管理の必要性と合理性が高まって来ることと思われます。


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